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Vol.0028
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◆◆ プロジェクト失敗学「営業・経営・政治」編
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【目次】
1.部下を思い通りに動かす方法(過去記事を一挙公開)
2.お薦めメルマガ
3. 編集後記
※過去記事→ http://www.ai-coach.com/backno/failprojlatest.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2004/05/18(Vol.28)━◆
【本号の学び】
『部下を罠にかけてストーリーを演じさせる方法は、
旧来の命令-服従型マネジメントの悪質な変種にすぎません』
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■ 部下を思い通りに動かす方法
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○部下を思い通りに動かす方法、自分が望む行動を部下が即座に取
るように仕向ける方法…戦略レベルではなくて日々の場面におけ
る戦術レベルで…それを非常に巧みに行う人が身近にいたことが
あります。
○その方法とは、簡単に言うと、まず自分にとって望ましい結果
(=部下に取ってほしい行動)を設定します。そして、結果を導
くのに妥当な原因を逆算します。
○それから部下を呼び出し、逆算で求めた原因を伝え、それが意味
するもの、それにもとづいて起こすべき行動を示唆します。
○逆算で求めた原因から結果(=取ってほしい行動)を導いている
ので、その場で原因→結果へ至る理屈に反論することは難しい。
部下も、導かれた結果そのものには腑に落ちない感じを抱きつつ
も、受け入れざるを得ません。日頃からロジカルに動くことをよ
しとする性格の人はなおさらです。
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■ 事実よりもストーリー
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○ここで重要なのは、原因はあくまで結果を導き出すために作られ
た情報であって、事実かどうかは関係ありません。事実よりもス
トーリーの方が大切なのです。
○事実でない原因を示しても部下は納得しないはずだ…確かにその
通りですが、巧みなのは、その場で部下が検証できない情報を原
因に用いることです。例えばつい先ほど自分が仕入れた(ことに
する)営業情報であるとか、部下の知らないところで交わされた
(ことにする)契約や約束、キーパーソンから発せられた(こと
にする)発言です。
○そんな戦術は子供だまし?…しかし、私が見聞きした限り、この
戦術は非常に高い成功率をあげていました。私自身、何度もこの
手に引っかかっています。皆、面白いように、当人の望むアクシ
ョンに優先的に取り組み始めるのです。
○話が抽象的になってしまいましたので、次回はもう少し具体的な
パターンをあげて説明します。
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■ 事例その1 〜部下に玉砕覚悟で挑戦させる〜
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○以下は実話でなく、いささか大げさに描いた架空事例です。ソフ
トウエア開発業界を想定しています。
(事例1)
○ある日、ベンチャー企業のプロジェクトリーダーとして働くAさ
んは上司から呼び出され、こう言われました。
今度、我が社は大手B社から包括的な開発委託を受けることになっ
た。B社のXX分野の開発案件は今後すべて我が社が請け負う。トッ
プとはもう話がついている。さっそく現場 担当者にアポを取って、
先方が持っている案件をリストアップし、詳細を詰めてくれ。
○Aさんが先方の担当者に会って話を聞くと、状況はまるで違って
いました。その担当者はマネージャから、こんな会社があるから
一度会ってみろ、と紹介されてはいましたが、それだけです。
包括契約の話などかけらも存在しません。
○Aさんは自社の体面もあって今さら引き下がるわけにもいかず、
包括契約を前提に話を進めようと振る舞いましたが、先方とは
一向にかみ合いません。信用を築く前に大きな仕事を強引に取りに
いく形となり、典型的な技術者タイプのAさんには慣れない展開に
苦しみつつも、玉砕覚悟で突っ走るしかありませんでした。
○この事例から学べることは何でしょうか?
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■ 事例1の考察
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○ここで、Aさんの上司が欲しかった結果は、AさんがB社に特攻
精神で営業をかけて先方の案件リストを入手し、包括契約につな
げることです。上司は、B社に食い込むには技術力をアピールす
るのが最善だ、Aさんに自分自身を売り込ませるのが近道だ、と
考えました。ここでもし上司が欲しい結果だけをAさんに伝えて
いたら、技術畑のAさんは慣れない役割と責任の大きさに尻込み
し、なんだかんだと回避するように立ち回っていたでしょう。
○状況がすべて整っているという前提を与えることで、あとは現場
レベルで詰めるだけというストーリーを示し、Aさんにとっての
行動障壁を下げたのです。
○なお、Aさんに仕事を命じる場においては、逆算された原因と結
果を伝えたら、君には早速これこれをやってもらいたい、と即座
の取り掛かりを要求してすぐに話を打ち切っています。その場で
Aさんに前提を疑わせたり検証したりする時間を与えないのがコ
ツです。
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■ 事例その2 〜部下に会社の窓口役を任せる法〜
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○以下は実話でなく、いささか大げさに描いた架空事例です。
ソフトウエア開発業界を想定しています。
(事例2)
ある日、小さな会社の幹部候補生でプロジェクト・リーダーのC
さんは、上司がDさん(Cさんの知らない人)に宛てたeメールを
CC(Carbon Copy)で受け取りました。
貴殿の入社に関しては、Cが窓口となります。
詳細は伝えてありますので、今後はCと話を進めてください。
○何のことやら背景がさっぱりわからないCさん。しばし戸惑って
いると、上司から電話で指示がありました。
Dさんというエンジニアが我が社へ採用応募してきた。
XX分野に詳しいようだから、XX担当として君の下につけたい。
すぐに面接して詳しい業務内容を詰めるのと、
技術スキルを判断して適当な待遇条件を私に提案してくれ。
○Cさんは早速Dさんとの面接をセッティングしましたが、会って
話を聞いてみると、どうもかみ合いません。
○Dさんは、Cさんの上司と一次面接を済ませており、仕事と待遇
については希望通りでOKを貰っている、今日は現場担当者との顔
合わせに来たのだと主張します。(以下、→はCさんの本音)
・自分はXXよりもYY分野を極めたい。
入社後はYY分野をやらせてくれると言われた。
→ XX担当じゃないのか。YY分野などウチはやらないぞ。
・給与待遇は、かくかくしかじかで話がついている。
→ そのスキルでは無理。自分だってそんなに貰ってないぞ。
・リーダー的なポジションを与えると言われた
→ それじゃ自分と同列。部下候補じゃなかったのか。
○Cさんは上司から言われた構想と自分が判断した給与待遇の見込
みを伝え、現実的な交渉をしようとしました。
○しかしDさんは、それでは話が違う、貴重な時間と交通費をかけ
て訪ねてきたのにこの仕打ちは何だ、訴えてやる、といきり立っ
てしまいました。Cさんは、またあの上司にしてやられたかと胸
の中で舌打ちしながら、どうにか事を収めようと必死に説得を続
けました。
(事例2ここまで)
●この事例から学べることは何でしょうか?
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■ 事例2の考察
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○ここで、Cさんの上司は二者に対して戦術を用いています。まず、
Dさんが先に他社へ流れてしまわないよう、Cさんと面接を行う
までの間、Dさんが関心を自社のみに向けるという結果を導くよ
うな原因をDさんに与えました(=望み通りの仕事・待遇を約束)
○そして、Cさんに対しては、Dさんに会社側の都合を受け入れさ
せるという結果が求められます。CさんはDさんの夢を打ち砕き、
怒りを一身に集めつつも厳として現実路線の交渉を進め、しかも
トラブルを表面化しないという損な汚れ役を演じなければなりま
せん。
○ですから、もしも上司が最初に事実を示せば、Cさんはおそらく
拒んでいたでしょう。たたでさえプロジェクト管理の本業が忙し
いのに、そんな茶番の尻拭いに付き合っていられるかと。そこで
Cさんの行動障壁を下手に高くしないため、形式的な普通の技術
面接であるというストーリーが必要になるのです。一度行動を起
こさせてしまえば、あとは逃げられない状況の中で、必死に結果
を出そうと最大限に努力してくれます。
※私の観察によると、会社の窓口役を任された状況において、すべ
ての事情をさらけ出して相手とすり合わせを図るサラリーマンは
いません。なぜか皆、現実をストーリーに合わせようと必死で取
り繕ったり、自分の責任で事を収めようとします。
○なおここでも、指示にメールのCCと一方的な電話連絡を用い、即
座の取り掛かりを命じることで、Cさんから上司へフィードバッ
クする機会を与えていません。Cさんの関心を結果のみに向かわ
せ、前提を疑わせたり検証したりする余裕を与えていないのです。
○さて、ではこの戦術を継続的に用いると皆がつねに望み通りに行
動し、大きな成果をあげるようになるのでしょうか。
(・・・前回までの記事ここまで)
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■ ようはだまし討ち
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○ここまで長々と書いてきましたが、「ようするに『人をだまして
動かす』ってことじゃないの」と思われた方も多いでしょう。そ
の通りです。
○日常的にこの戦術を用いる人を見たとき、私はどうにかして戦術
の正当性を自分の中で消化しようとしました。これは知略である、
政治である、ビジネスの高等テクニックである、マネジメントの
奥義である、敵を欺くにはまず味方からの実践である、何か深い
意図が隠されている、微笑ましい天然ボケである、等々…。しか
し結局は人をだまして動かす以外の何物でもありませんでした。
○もしこの戦術が大きな成果に結びついていれば、結果オーライで
私も支持者になっていたかもしれませんが、少なくとも日常的に
用いることはおすすめしません。戦術はあくまで戦術、戦略とは
違います。一時的・局所的な効果を得ることはあっても、長い目
で見れば副作用の方が大きいかもしれないのです。
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■ 部下を思い通りに動かしても結果が出ない方法
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○上司と部下は敵同士の関係ではありません。罠をはって部下から
勝ち戦を得たところで意味がないのです。部下も馬鹿ではありま
せんから、次第に戦術に対して適応してきます。上司は童話に出
てくる狼少年とみなされます。上司の言うことにフィルターをか
けるようになります。裏を読んだり正反対の意味にとったり聞き
流したりし、組織にとって重要な情報伝達機能がマヒします。
○また、最初の行動障壁を下げることとモチベーションを高めるこ
とは違います。だまされて仕事に放り込まれたと気づいたとき、
強い意志を持って最後までやり抜こうとする人はいるでしょうか。
逃げ道を考えながら嫌々取り組むのではないでしょうか。周囲に
愚痴をこぼし、不信感と無気力をばらまくのではないでしょうか。
その意味では、だまして人を動かすのも脅して人を動かすのも大
差ありません。
○しかも戦術を用いる上司の側も、本来はビジネス上の目的を達成
したかったはずなのに、いつの間にか部下に行動を起こさせる
ことが目的になってしまいがちです。この手の上司は部下に行動
を起こさせたら安心してしまいますが、たいていは自身の描く
ストーリーが稚拙なために、ビジネス上の目的を達成することは
ありません。
○世間ではコーチングのように、双方向のコミュニケーションに
もとづいて部下の自発的なやる気を促す試みが進められています。
そんな時代にあって、部下を罠にかけてストーリーを演じさせる
方法は、旧来の命令-服従型マネジメントの悪質な変種にすぎません。
ITコーチング・ラボ パートナー 内山幸央
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